1.レタスの褐変
レタスは、キク科の「チシャ」という野菜の仲間。「チシャ」の名は「ちちくさ(乳草)」がなまり、チサが変化したもので、手でちぎったりする時に乳状の液が出てくるため、このように呼ばれる。この乳汁にポリフェノール類が含まれており褐変する。
1.1 酵素的褐変
酵素的褐変は、乳管細胞の破壊で生じる。
基本的には、リンゴで生じる褐変と同じである。細胞組織が破壊されると、細胞内液胞に存在しているポリフェノールが溶出し、葉緑体に存在しているポリフェノールオキシダーゼ(PPO)と接触して、酵素褐変する。
葉脈(特に中央脈)に添って赤褐色になる葉、葉そのものが赤色になっているものが、外葉で見られる。葉脈が物理的に破壊されると、乳管細胞や乳管が破裂して、褐変する。
この組織褐変は細菌が植物細胞や葉脈や葉に入り込み、組織を破壊しても生じる。
1.1.1 褐変のメカニズム
植物性食品を切る、つぶすといった乳管細胞破壊の破裂により生じる。これは液胞に存在しているポリフェノールが、組織が破壊されたことで葉緑体プラスチドに存在しているポリフェノールオキシダーゼ(PPO)と接触可能になり、酵素的に酸化されキノン体が生じ、このキノン体は化学的に反応性が高く、重合、縮合、他成分との反応などを経て、褐変する。そのため外観が変わり、生鮮食品の品質を損なう。リンゴの酵素的褐変は最もよく知られたものの一つで、リンゴの主要ポリフェノールであるクロロゲン酸がPPOにより酸化され起こる。
図3-1 褐変のメカニズム
1.1.2 レタス等のカット野菜を貯蔵しておくと褐変する。
これも酵素的褐変の一種であるが、リンゴの場合と著しく異なるのは、すぐに褐変せず数日間貯蔵後褐変することである。これはリンゴの場合と違ってレタスにはポリフェノール量が極めて少ないからである。切断という組織破壊を行ってもPPOの基質が存在しないからすぐには褐変しない。レタスをカットするとカットに対する傷害応答が起こり、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)が誘導される。
その結果、貯蔵中にポリフェノールが徐々に合成されて順次酸化され、褐変が生じる。
リンゴのようなタイプの酵素的褐変(基質、酵素とも存在)を即時型、カットレタスのようなタイプの酵素的褐変(基質もしくは酵素が誘導される)を遅延型褐変と呼ぶ。
1.1.3 カットレタスの褐変防止にはPAL活性の制御が重要になる。
1) 2-アミノインダン-2-ホスホン酸のようなPALの特異的阻害剤で処理すると褐変は顕著に抑制される。
2)50℃程度のぬるま湯に90秒程度カットしたレタスをつけてその後冷蔵すると褐変しなくなる。ヒートショックを与えたカットレタスで、PAL活性の上昇は認められず、ポリフェノール量も変わっていない。ビタミンC含量も変わらず、官能的にも品質的にも優れている。添加物も使わず、特別な装置も必要としない簡便な制御法と言える。
しかし、作業性の点から採用していない。
(参考文献:酵素的褐変とその制御:ポリフェノールの代謝調節 村田 容常 お茶の水女子大学大学院人間文化研究科食環境科学講座 http://www.hles.ocha.ac.jp/food/chozo/lettuce.pdf)