3.光は毒にもなる。

光は光合成を駆動するが障害も引き起こす。光は沢山あれば良いというものではない。

適度な光の強さでは,光強度が強くなるに伴って光合成量は増大するが,逆に強すぎる光は葉緑体にダメージを与えてしまう。

植物は光阻害の修復機構を持ち、常に壊れた光化学系の修復を行っているが、光阻害速度が修復速度を上回るような強い光環境だと、過剰な光エネルギーが活性酸素を生成し、ダメージを引き起こすことになる。

 

3.1 葉緑体運動

光を効率よく利用するため、葉緑体は周囲の光環境に応じて細胞内を移動する。

葉緑体は弱い光に対しては集まり(集合反応)、強すぎる光からは逃げる(逃避反応)。

光の情報(強さ,入射方向,波長など)に従って、葉緑体が動くことが知られている。

葉緑体は、扁平な円盤型をしており、光が強いときには葉緑体は細胞の側壁に並び、光を下部に通す。光が弱いと光をより受け取るように光に対して垂直に並ぶ。強すぎる光は出来るだけ吸収せずに下部に逃がして、活性酸素の生成を減らし、光傷害を避けるという生理学的意義がある。弱い光は出来るだけ受け取ることで、光合成の効率を上げる。

 

3.2 なぜ強すぎる光は光合成によくないのか?

光合成には光を使う反応(明反応:チラコイド膜で起こる)と光を使わない反応(暗反応)がある。明反応は、光を強くしていくと速度が上がるが、暗反応の速度は温度などの条件が一定なら一定だと考えられる。

(1)弱光の時は明反応が全体の光合成の速度を決めることになる。

光が強くなっていくと、最初は光合成全体の速度が上がるが、全体の速度は暗反応を超えることはない。

(2)ある程度以上の光の強さになると、暗反応の速度が全体の光合成の速度の律速になるので、それ以上は光合成の速度が上がらなくなる。

(3)光が過剰になっても光化学反応は進行し、電子伝達系はさらに還元力を蓄積しようとする。強光下で光飽和に達した状況で赤色光を加えると、光飽和に達したクロロフィルに吸収されるが、そのエネルギーのほとんどが熱として散逸される。しかし、還元力の消費は限界に達しているので、電子伝達系は渋滞する。

1)暗反応で、NADP+の還元に使われない電子は酸素の還元に使われ、活性酸素が生じる。

2)明反応(光化学系II)で、電子の渋滞によりクロロフィルの異常な励起が生じて活性酸素が生じる。活性酸素は光合成装置の破壊をひき起こし光障害が起こる。活性酸素で細胞はダメージを受ける。

⇒日長時間の短縮や、葉中のルビスコの増やすため養液中の硝酸態窒素を高める等で、明反応のエネルギー生産と暗反応のエネルギー消費のバランスを取るようにする。

(4)植物には防御システムがあり、ある程度まではエネルギーを安全に熱エネルギーの形にすることができる。しかし、さらに光が強くなると、エネルギーが余ってそのエネルギーによって光合成の装置が壊されてしまうことがある。これを「光阻害」といって、余った光エネルギーにより「活性酸素」と呼ばれる反応性の高い物質が発生し、それが光合成装置を破壊することになる。