1.何が起こったのか
湛液水耕で養液の流れがないまま栽培すると、生育が遅れた。
養液の流れがあると、約1.5倍の成長量となり、品位も優れていた。
噴霧水耕では、酸素欠乏は生じなかった。
2.原因は何であったのか。
湛液栽培では、酸素欠乏への注意が必要で、養液の水流と養液温度の管理が重要となる。
(1)酸素欠乏で、根がダメージを受けた。
1)いわゆる『湿害』であり、酸素が不足すると根の呼吸作用が減退する。
根の呼吸作用が低下すると新陳代謝に関係の深い酵素の作用に変化をきたし、植物の生育に様々な変化が発生する。その結果、根の伸長が阻害され組織の壊死や木質化が起こり、養水分の吸収が抑制されて地上部の生育が不良となる。
特に湿害が生じやすいのは成長が盛んな根の先端部で、盛んに細胞が活動しているからである。そこではエネルギーが多量に消費されており、呼吸量も多くなるので、常に酸素要求量の高い状態にあり、ATP生産に必要な酸素が不足する。
2)湛液水耕:(参照:写真2-8 水流の有無の差)
①養液の流れは無い⇒根全体が褐色化 養液の流れは無い⇒根全体が白っぽい。
②定植後12日栽培のトリミング後の重量比=80g:120g
③養液空気バブリング有と水流有の比較では、重量の差はなかった。
養液温度20℃で養液の酸素濃度は8ppmであった。
左図の説明:
1)照度、温度、湿
度は同一栽培条件。
2)小型の水流器を
小型水槽内に設置
して、養液の流れ
を作った。
写真2-9 水流の有無の差
(2)養液中の必須栄養素供給が不足し生育が遅れた。
根の近傍の必須栄養素は、根から吸収されると濃度は低下する。特に多量必須元素の窒素、リン、カリウムは要求量が多いので、短期間に不足を生じやすい。
養液に流れがあると、根の近傍の必須栄養素の濃度は速やかに回復する。
3.対策方法と目標到達点
《目標到達点:成長速度を従来と同等にする》
(1)湛液水耕栽培では、酸素欠乏を防ぐため養液に流れを作り、栽培ベッドによどむ部分を作らないようにする。
(2)噴霧水耕栽培では、酸素欠乏状態は基本的には生じない。しかし、水槽の底部に溜まる養液は、温度が上がり溶存酸素が減じると、根端に軽度の障害を生じることがある。
水槽底部に溜まる養液量を少なくする。
軽度酸素欠乏で、根端部が褐色に変色する。
この程度であれば、生育障害は確認できなかった。
根端の障害が進むと、根の伸長は衰える。
(注:フラッシュの光が写ったもの)
写真2-10 軽度の酸素欠乏の根端