1.何が起こったのか
フリルレタスの栽培日数は42日間が一般的である。トリミング後の収穫重量は90g~120gであり、背丈は20cm前後となる。それが、収穫重量60~70g程度で、背丈も17cm以下となった。
2.原因は何であったのか。
(1)苗の成長が悪かった。(苗半作の諺)
1)養液の硝酸態窒素濃度(約200ppm)が低かったので、ルビスコ量が少なくなった。
育苗段階の養液中の硝酸態窒素濃度は、高濃度の方が光合成系タンパク質(ルビスコ)量を増やす。ルビスコはタンパク質であり窒素が基質となるので、硝酸態窒素濃度が高い方が、ルビスコ量が増えることになる。
図 2-2 発芽後の日数とルビスコ量
(牧野:窒素の体内利用に関する研究一部改変
http://www.agri.tohoku.ac.jp/syokuei/research2.html)
2)養液の根部への酸素・養液の供給が十分あると、生育が早くなるが、藻の発生が多いと、藻が硝酸態窒素を吸収するため、苗への供給量が減るため、成長は遅れる。
また、pHをアルカリ側にシフトさせ、根にダメージを与えて、養分吸収を阻害する。
(2)仮植・定植時の葉からの蒸散量が少なく、養分供給が十分でなかった。
(3)養液更新が遅れ、必須元素バランスが崩れと、自家中毒物質濃度を高めた。その為、生育が悪くなった。光飽和点以下の光環境では、光合成速度は光強度に律速される。さらに、光合成は必須元素充足率の一番少ない成分で制限される。(ハインリッヒの法則)
(4)トータル日長時間が短いと、炭水化物生産が少なくなる。植物が受けた積算光量の増減に伴って光合成が増減し、生育に影響する。
図2-3 光強度と必須元素管理
上図左部分では、リンの充足率が制限要因を示している。
上図右部分では、二酸化炭素の充足率が制限要因であること示している。
(5)養液温度が高くなっていた。高温により根の通水性が阻害された。
1)根の通水性は高温区で低下する。
2)根の硝酸吸収速度は高温区で低下する。
(参考)①ポンプの発熱による、養液温度上昇は0.5~1.0℃程度であった。
②受水槽が室外に設置されており、夏場に受水槽内の水温が上昇した。
3.対策方法と目標到達点
《目標到達点:成長を従来と同等にする》
なお、チップバーンが発生しやすくなるので、確認しながら対処すること。
(1)硝酸態窒素濃度を300ppm以上とする。経験則である。
(2)葉の蒸散量を増やす。飽差を高め、風を送ることで、二酸化炭素と酸素の供給を増やす。二酸化炭素の供給を増えると、それに応じたリンと窒素を増やす必要がある。
(3)育苗養液中の必須元素濃度を高める。(2)と(3)により、必須元素量を供給する。
(4)トータル日長時間を長くし、明期:暗期サイクルを短くする。(チップバーン対策)細胞膨圧が高まらないようにする。
(5)栽培室内の二酸化炭素濃度を1,000ppm以上で管理する。
(6)栽培室温度を数度高める。
生命活動は根本的には細胞内の化学反応であり、温度で成長が左右される。
一般的に化学反応は、常温付近で温度が10 ℃上がると反応速度は2~3 倍上昇する。
葉温が1℃上昇すると、計算上1.2倍成長が早くなることになる。
表2-2 栽培温度と栽培日数 実例
収穫日 |
栽培室温度 |
栽培日数 |
2015年10月 |
24~26℃ |
37~38日 |
2016年3月 |
20~23℃ |
41~42日 |
10月/3月比 |
|
0.9倍 |
フリルレタスの栽培日数は42日が一般
的である。栽培室温度を2℃程度上げる
ことで、栽培日数は37日に短縮できる。
しかし、チップバーンが出やすいので、
管理を十分に行う必要がある、
(7)養液温度を、22℃以下で調整する。
栽培室温度に応じて養液温度も変化する。栽培室温度を高めれば、養液温度も高くなる。
養液温度は20±2℃で管理することが望ましい。
1)養液タンクに冷却装置を設置し、養液温度を20±2℃で管理する。
2)栽培室の噴霧冷却方法は、栽培室内湿度を管理しているため、使えない。
3)冷却装置が無い、またはすぐに設置できない場合の対応方法。
風を送り、葉からの蒸散量を増やして温度を下げる。
<参考:設備完成直後の養生>
1.何が起こったのか
栽培設備完成後の初めの数回の栽培試験で、生育が遅れた。
栽培条件は過去に経験している条件で栽培試験をおこなったが、原因がつかめなかった。
栽培回数を増やすと、所定の大きさに成長した。
栽培ベッドの防水シートは塩ビ製であり、塩ビ特有の臭いが強かった。
2.原因は何であったのか。
原因は不明。
コンクリート製の池では養生後に魚を放流するが、それと同じではないかと考えられた。
3.対策方法と目標到達点 《目標到達点:成長速度を同等にする》
(1)他の人工光型植物工場で、栽培ベッドの塩ビ製防水シートを予め風乾し、臭いを軽減した後に、栽培ベッドに取り付けた。
(2)設備完成後、養液を数回循環させたのちに、栽培試験に入った。
養生期間が過ぎれば、生育への影響は認められなかった。