9.光は毒にもなる。

9.光は毒にもなる

光は光合成を駆動するが障害も引き起こす。光は沢山あれば良いというものではない。  植物は光を受けて光合成を行い、エネルギーを作り出して成長するが、強すぎる光は植物にとって有害であることが知られている。特に曇り空から雲が去り、急に晴れ間がさした時などは急激に光の強さが変わるため、強い光に対して迅速に適応しなければ光合成器官が破壊される。光が強い条件に適した光合成の仕組みだと光がそれより弱い時は光合成効率が下る。

であれば、植物は中程度の光の強さに適応した光合成システムを持ち、強い光の場合には、それに対する防御機構を発動する方が合理的である。また、植物は光阻害の修復機構を持ち、常に壊れた光化学系の修復を行っているが、光阻害速度が修復速度を上回るような強い光環境だと、過剰な光エネルギーが活性酸素を生成し、ダメージを引き起こすことになる。

 

図2-4 光量と光合成速度

(図の説明:添付CD内の図を参照)

①緑色の部分:光の強さに従い、光合成速度があがる。

②だいだい色の部分:光合成速度は上がらず、化学エネルギーが余剰になる。

 

9.1 なぜ強すぎる光は光合成によくないのか?

光合成には光を使う反応(明反応:チラコイド膜で起こる)と光を使わない反応(暗反応:チラコイド膜で起こる反応の一部とストロマで起こる反応)がある。

光のエネルギーを使う反応は、光を強くしていくと速度が上がるが、光を使わない反応の速度は温度などの条件が一定なら一定だと考えられる。光が弱い時は光を使う反応が全体の光合成の速度を決めることになる(光を使う速度が全体を「律速」しているという)。

光が強くなっていくと、最初は光合成全体の速度が上がるが、全体の速度は光を使わない反応を超えることはない。ある程度以上の光の強さになると、光を使わない反応の速度が全体の光合成の速度の律速になるので、それ以上は光合成の速度が上がらなくなる。

強くした分の光のエネルギーはどこへ行くか? 

光のエネルギーは光合成の反応を進めるエネルギーとして使われるが、強い光の場合、光合成速度はそれ以上に上がらないので、余分な光のエネルギーは光合成に使うことはできなくなる。植物には防御システムがあり、ある程度まではエネルギーを安全に熱エネルギーの形にすることができる。しかし、さらに光が強くなると、エネルギーが余ってそのエネルギーによって光合成の装置が壊されてしまうことがある。これを「光阻害」といって、余った光エネルギーにより「活性酸素」と呼ばれる反応性の高い物質が発生し、それが光合成装置を破壊することになる。

9.2 明反応と暗反応は、本質的に両者は独立である。

(1)光環境への制御系は幾つか存在するが、変動により両者のバランスは崩れる。

①弱光環境では 明反応が炭素固定反応を律速する。光化学反応速度が遅いので、ATP・NADPHの供給が遅くなり、その結果、RuBP(リブロース-1,5-ビスリン酸)生産速度が落ちるので光合成速度を律速することになる。

②強光下では, 明反応のつくり出す化学エネルギーを炭素固定反応が消費し切れない。これが光エネルギーの過剰である。

(2)光の過剰は単に光強度だけに依存するのではない。

①低温等で炭素固定反応の能力が低下すると、比較的弱光でも光は過剰になる。

②露地での乾燥ストレス下では気孔が閉鎖し二酸化炭素が取り込めないので、光の過剰問題は深刻になる。

③完全人工光型植物工場では湿度が50~60%でも、根からの水分吸収量が多く気孔は閉じることは少ない。青色光は気孔を開き気孔閉鎖による炭酸ガスの取り込み不足は生じ難い。

④無風環境が生じ易く、炭酸ガス供給が遅れることで暗反応が遅れ、光エネルギー消費が少なくなる事で、光エネルギーの過剰が問題を生じさせる。

⑤湿度と風の管理が重要となる。葉からの蒸散量を高め、養分供給を増やして光合成暗反応速度を高め、さらにカルシウム供給を増やしことでチップバーン障害を防ぐ。

(3)光が過剰になっても光化学反応は進行し、電子伝達系はさらに還元力を蓄積しようとする。強光下で光飽和に達した状況で赤色光を加えると、光飽和に達したクロロフィルに吸収されるが、そのエネルギーのほとんどが熱として散逸される。しかし、還元力の消費は限界に達しているので、電子伝達系は渋滞する。

①光化学系Iで、NADP+の還元に使われない電子は酸素の還元に使われ、活性酸素が生じる。

②光化学系IIで、電子の渋滞によりクロロフィルの異常な励起が生じて活性酸素が生じる。活性酸素は光合成装置の破壊をひき起こし光障害が起こる。活性酸素でダメージを受けた細胞は、カルシウム供給が少ないとチップバーン等の障害を生じ易い。

③日長時間の短縮や、葉中のルビスコの増やすため養液中の硝酸態窒素を高める等で、明反応のエネルギー生産と暗反応のエネルギー消費のバランスを取るようにする。

 

9.3 光阻害のメカニズム

(1)葉が受けた光エネルギーのうち、光合成や熱放散等で消費し切れない過剰な光エネルギーがダメージを引き起こす。(Excess energy 仮説)

  光エネルギーは光合成暗反応で炭水化物合成、光呼吸、熱放散などで消費される。

  強光や連続光下において光呼吸速度が増大するが、光呼吸によって消去されない余剰の光エネルギーが葉緑体に存在すると、葉緑体でO2発生量が増加し,それを消去するためにSOD活性(O2-をH2O2 に代謝する)活性を増大させるが、SOD 活性を増大させても処理しきれない量でO2- が発生するため、光障害(連続光障害)の発生に至る。さらに、維管束に障害が生じる為、カルシウム供給が妨げられチップバーンが発生する。

(2)植物の光呼吸は光が当たる時に行われる。酸素を消費し二酸化炭素を生成する。過剰な光エネルギーで起こる有害な化学反応を防ぐ為と言われている。暗呼吸は酸素を使ってブドウ糖から必要なエネルギーを取り出す反応であり、光の強さに関係ない呼吸である。

(3)光呼吸は光合成の明反応で生じるATPとNADPH の一部を消費している。

①COが光エネルギーに比べ不十分な時、過剰な光エネルギーで生じる光阻害を防ぐ。

②ルビスコはCOとOの濃度に依存してCO → O または O →活性酸素のいずれかの反応を行う。CO 濃度が十分に高い場合はO2→活性酸素 の反応はほとんど行われないが、通常の空気下では両方の反応が行われる。光呼吸はここで発生した有害な活性酸素を除去するための機構である。