1.5 細胞強度を弱くする要因
根から吸収されたカルシウムは導管中を移動速度が遅いので、葉先への供給は多くはない。
細胞膨圧≧細胞強度になり易いので、細胞強度を弱める栽培は避ける必要がある。
1.5.1 カリウム
(1)植物は光合成でデンプンを作り、エネルギーを貯蔵する。カリウム不足で十分にできなくなり、根や茎や種子が太らなくなる。
植物は糖から細胞壁を作るが、細胞壁の材料がセルロースやヘミセルロースで、壁と壁を接着するノリがペクチンです。
カリウムが不足すると細胞壁を構成するセルロースやヘミセルロース、壁と壁とを接着役目を果たすペクチンが、作られなくなり、植物が軟弱になる。
特に、低カリウム野菜を栽培する場合に注意が必要となる。
(2)カリウム濃度が高いと、マグネシウムやカルシウムの吸収が抑制される。
カリウムとカルシウムの拮抗作用で、カルシウム吸収が抑制されるとペクチンカルシウムも十分に作られなくなる。
1.5.2 光エネルギーで起こる光阻害
(1)葉が受けた光エネルギーのうち、光合成や熱放散などで消費しきれない過剰な光エネルギーが活性酸素を生成させ、光合成反応にダメージを引き起こす。
活性酸素の作用は
①かたい細胞壁の構造をゆるめると同時に、強度低下と成長を促している。
②活性酸素が色素やタンパク質を破壊し、光合成反応を破壊もしくは修復を阻害する。 枯れや、クロロフィルの破壊による変色等の光阻害を引き起こし、チップバーンが発生する。
(2)植物は光阻害の修復機構を持っており、常に壊れた光化学系の修復が行われているため、光阻害速度が修復速度を上回るような強い光環境でないと、光阻害を観察することは出来ない。しかし、実際には光化学系の損傷と修復の速度は速く、過剰な光エネルギーが発生しない弱光環境では光阻害は起こり難い。
(3)マ ンガンクラスター(マンガン)に吸収された光エネルギーにより、酸素発生部位が光損傷を受け、二次的に反応中心が光損傷を受ける。
マンガンが光によって励起されて遊離し、酸素発生系が機能を失うことで、弱光環境でも光阻害が生じる。その為、チップバーンを完全に無くすことは難しい。
1.5.3 成長速度
成長速度が速いと細胞中のカルシウム不足になりやすい。
(1)カルシウムは上の葉や先端部までは届き難い。葉の成長が早いと、葉先端部への供給量が少なくなる。成長速度の速い収穫期にチップバーンの発生が多くなる。
(2)栽培温度が高いと成長が早くなる。
(3)収穫前の時期は成長が早い。急速に大きくなるので、チップバーンが出やすい。
人間に例えてみれば、中学生の時期に起きやすい成長痛である。急速に成長するため、骨の成長に必要なカルシウムの供給が間に合わず、成長痛が起こる。
図1.1 成長曲線
1.6 細胞膨圧を低くする。
浸透圧により細胞の体積は増加する。低濃度から高濃度の領域に、濃度が等しくなるまで水が流れこむ。全ての細胞は脂質二重層の細胞膜に囲まれており、これは水の出入り出来るが、溶質の流れは制限される。
1.6.1 葉の膨圧は連続日長で高まる
葉では同化産物や無機イオンの蓄積により、葉の細胞内は高濃度の溶液となっているので、
水が膜の中に流れ込んで、細胞の体積が増加することになる。細胞膨圧は高まる。
明期の時間が長いと、細胞内に貯まる同化産物などが高濃度となり、細胞膨圧は高まることになる。そこで、明期:暗期のサイクルを短くすれば、最大細胞膨圧は低くなる。また、暗期期間は葉の成長が抑えられるので、養水分中のカルシウムを葉先まで供給することが出来る。なお、蛍光灯の場合、点灯の回数が多いと寿命が短くなるので、チップバーンの発生が許容範囲であれば、明期(点灯時間)は長い方が良い。(参照:第3章 8.膨圧)
1.7 キャビテーション
導管や仮導管にキャビテーション(気泡)が起こり、養水分供給が滞る。修復されないと、水を供給する通導組織が減り、修復が起こらない条件ではその部分は枯れてしまう。
液体の流れの中で圧力がごく短時間だけ飽和蒸気圧より低くなると(水では大気圧の約1/50=20hPa程度)、液体中に存在する100ミクロン以下のごく微小な「気泡核」を核として溶存気体の遊離によって小さな気泡が多数生じる。
例えば、炭酸水の栓を抜くと、減圧されて気泡が発生するのと同じである。気泡核がなければ気泡も簡単には発生しない。また、水が温まる様子を見ていると水を入れた器の底に泡がつくが、この泡は水に溶けていた空気が気体になったものである。
この泡が導管(直径は0.6 mm以下)で発生し、道管の直径より大きくなって、導管の養水分の流れが泡で断ち切られる事態なれば、水の移動ができなくなる。
(参照:第3章 11.キャビテーション)
図1-2 キャビテーション