第1章:トラブル事例として最も多い「チップバーン」の詳細解説

1.チップバーン(葉先枯れ症)とは何か  (写真は書籍にて確認ください。)

チップバーンは、新葉や成長点など生理活性の高い部位のカルシウム濃度が相対的に不足し、新葉部分が変色する生理障害を指す。

チップバーン部分を食べても問題ないが、発生の程度によっては商品価値を著しく損なう。

 

 

 

 

 

 

写真1-1            写真1-2

 

1.1 チップバーンの分類

症状の度合いにより、二つに分けることができる。

1)葉先端部が枯死する状態(褐色から黒色)

2)芯葉~上位葉の葉先が枯死し、褐色になり枯れた状態になる。

 

1.1.1 葉先端部が褐色から黒色になる

下葉の葉先に多く見られる。

 

 

 

 

 

 

写真1-3 葉先の先端部分がチップバーン写真

 

1.1.2 葉先端部が枯死した状態

上位葉の葉先が黒褐色になり、さらに枯れた状態となる。

乾燥状態が進むと、茶褐色化してくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

写真1-4 枯死部分とその拡大写真

 

1.1.3 葉柄や葉脈に生じる赤色褐変

1)茎部乳管破裂による褐変。チップバーンでは無いが、同様の褐変メカニズムで生じる。

 

 

 

 

 

 

写真1-5 葉脈に生じる赤色褐変。 赤色褐変部の拡大写真 

 

2)外葉が自重でたわみ、乳管細胞が破裂して裂け口が褐変する。さらに、乳管が破裂して、赤色褐変部が広がる。

 

 

 

 

 

 

写真1-6 乳管細胞の破裂と乳管の破裂

 

 

 

 

 

 

1.2 チップバーンの褐変化のメカニズム

(参照:第3章 1.レタスの褐変)

 

1.2.1 茎部切断後、分泌した乳汁が短時間で褐変する

レタスの茎部を切断すると、乳汁が滲出(しんしゅつ)(液体が外ににじみ出ること)し、褐変する。リンゴで生じる褐変と同じである。植物性食品を切る、つぶすなどの細胞組織破壊が生じると、乳管細胞も破壊される。細胞内液胞に存在しているポリフェノールが溶出し、葉緑体に存在しているポリフェノールオキシダーゼ(PPO)と接触して、酵素褐変となる。

 

1.2.2 レタス等のカット野菜を貯蔵しておくと褐変する

これも酵素的褐変の一種であるが、リンゴの場合と著しく異なるのは、すぐに褐変せず数日間貯蔵後褐変することである。これはリンゴの場合と違ってレタスにはポリフェノール量が極めて少なくなっているからである。切断という組織破壊を行ってもPPOの基質が存在しないからすぐには褐変しない。レタスをカットするとカットに対する傷害応答が起こり、フェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)が誘導される。その結果、ポリフェノールが貯蔵中に徐々に合成され順次酸化されるので褐変が生じる。

リンゴのようなタイプの酵素的褐変(基質、酵素とも存在)を即時型、カットレタスのようなタイプの酵素的褐変(基質もしくは酵素が誘導される)を遅延型褐変と呼ぶ。