2. 完全人工光型植物工場に適した栽培品種
完全人工光型植物工場で生産に適する作物は、半陰性植物と陰性植物である。
技術的には果菜類から穀類まで露地栽培品と同じ品種を栽培することは可能である。
しかし、技術的には可能であっても、果実類の栽培では採算に乗る事は無い。
2.1 完全人工光型植物工場に適した栽培品種は葉物野菜である。
レタスやほうれん草は半陰性植物であり、比較的低照度で栽培が可能である。
(1)陽性植物:地上に実を付ける野菜
トマト、キュウリ、ナス、ハクサイ、タマネギ、トウガラシ、ピーマン、オクラ、スイカ、メロン、カボチャ、ダイズ、インゲンマメ、エンドウ、ソラマメ、ラッカセイ、トウモロコシ、キャベツ、カリフラワー、ダイコン、セロリ、ニンジン、サツマイモ、ゴボウ、等
(2)半陰性植物:レタス、イチゴ、ホウレンソウ、コマツナ、カブ、わさび、かぶ、ジャガイモ、パセリ、 シュンギク、ジャガイモ、サトイモ、ショウガ、アスパラ、ネギ、インゲン ネギ、ミョウガ等
(3)陰性植物:ミツバ、セリ、クレソン、シソ、ミョウガ、フキ、ニラ等
光量子束密度 照度
真夏の直射日光 : 2,000 μmol m-2 s-1 15万ルクス
曇り : 50 μmol m-2 s-1
教室の蛍光灯下 : 10 μmol m-2 s-1
完全人工光型植物工場 : 200 μmol m-2 s-1 1.5万ルクス
表2-2 作物の種類
作物 種 類 光飽和点(ルクス) 光補償点(ルクス)
レタス 半陰性植物 25,000 1,500~2,000
ミツバ 陰性植物 20,000 1,000
トマト 陽性植物 70,000 ―
ナス 陽性植物 40,000 2,000
キュウリ 陽性植物 55,000 ―
イチゴ 半陰性植物 25,000
2.2 半陰性植物と陰性植物を選択する理由
(1)補償点が低下するので、低照度でも栽培が可能になる。
陰性植物は日光が不十分な日陰で育つ。光が弱くても成長する為に生産が消費より多くなければならない。つまり消費(呼吸)を減らすことで弱い光でも成長できる。
(2)光飽和点が低いので、電気代などの経費や照明機器への投資金額を抑える事が出来る。
光飽和点が低いのは、陰生植物の葉の柵状組織が未発達であることが原因である。柵状組織を発達させれば大量の葉緑体をもつことができ光飽和点は上昇するが、柵状組織を維持するためには消費も大きくなる。
しかし、陰生植物が実際に発達した柵状組織を使って大量の光合成をする機会は滅多にない。ほとんど大きな森の下草として生まれ一生を終えるので、柵状組織を発達させても使うことは無い。使いもしない無駄な組織を維持することは得策ではないので、未発達のままになっています。もし柵状組織を発達させ光飽和点を上げた陰性植物があっても、未発達な他の陰生植物との生存競争に敗れて、今は存在しない。
(3)レタスの葉厚が少ないのは、柵状組織の発達が十分でないからである。
(4)トマトなどの果菜類には強光を必要とし、栽培日数が長い。人工光は売り物にならない葉や茎にも利用される。背丈が高くなるので、多段式栽培が難しい。完全人工光型植物工場では経費が高く、初期費用も高くなるので、減価償却費が大きくなる。 その結果、販売価格が高くなり、事業として成り立ちにくい。
2.3 ベビーリーフについて
(1)ベビーリーフは、ミズナ、オークリーフ、ロロロッサ、タアサイ、ビート、スピナッチ、ルッコラ等の幼葉の総称である。葉丈10~15cm程度で葉柄部分から収穫する。
栽培方法は葉物野菜と大差は無く、葉物野菜の仮植段階で収穫したものである。
(2)野菜の栄養価は、栽培時期や栽培方法により異なる。
サラダなどに供する。彩として利用され、数十グラムを食する事はないので、サラダ用の野菜の主役になる事はないと考えられる。例えば、栄養化の高い野菜として、パセリが挙げられるが、栄養として意味のある量を食することは無いのと同様である。
(3)ベビーリーフ栽培の特徴
①栽培期間は平均15日~30日と短い。通常リーフは35日~42日間が多い。
②収穫は外側の大きな葉から摘み取っていくのが一般的である。その為、多段式栽培ベッドでは収穫作業がやり難い。中心の小さな葉を残しておくと、長い間収穫できる。
③定植作業が不要となり、栽培管理は容易になる。
④リーフレタスのベビーリーフの場合、播種後25日で20g~30g/株になる。
2.4 無農薬栽培
わが国で露地栽培する場合、無農薬で菌数管理や虫を管理して栽培が可能な葉物野菜類
は、実質不可能である。また、無農薬で栽培しても、農林水産省の「特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」(農林水産省消費・安全局表示・規格課)より、「無農薬」表示を行う事は出来ない。完全人工光型植物工場での野菜栽培でも同様である。
(1)平成15年5月改正前のガイドラインの表示に使われてきた「無農薬」の表示は、生産者にとっては、「当該農産物の生産過程等において農薬を使用しない栽培方法により生産された農産物」を指す表示であったが、この表示から消費者が受け取るイメージは「土壌に残留した農薬や周辺の田畑から飛散した農薬を含め、一切の残留農薬を含まない農産物」と受け取られており、優良誤認を招いたためとされている。
(2)完全人工光型植物工場では、周辺の田畑から飛散した農薬なく、実質無農薬であるが、「無農薬」表示は今後の課題である。
(3)微生物を低レベル(1000ケ/g以下)に抑える為に、微酸性電解水は有効である。2002年6月10日付け厚生労働省令第75号において「微酸性次亜塩素酸水」の名称で食品添加物の殺菌剤に指定されており、『完全無農薬』と説明する事が出来た。しかし、2014年4月1日に特定農薬(特定防除資材)に認定され、「完全無農薬」と言えなくなった。
(4)実質「無農薬」で栽培する場合、一般生菌数 (SPC) は104ケ/g以上になる事が多い。微酸性電解水使用により、102ケ/g 台で管理する事が出来る。
可食部
100g当たり 単位 兵庫ベビーリーフ 茨城ベビー
リーフ 熊本ベビーリーフ レタス ホウレン草 コマツナ シュンギク
エネルギー Kcal 24 19 21 12 20 14 22
水分 g 91.5 92.7 92.6 95.9 92.4 94.1 91.8
タンパク質 g 2.6 2.3 1.9 0.6 2.2 1.5 2.3
脂質 g 0.6 0.5 0.5 0.1 0.4 0.2 0.3
炭水化物 g 3.4 2.7 3.3 2.8 3.1 2.4 39
食物繊維 g 2.8 2.6 2.5 1.1 2.8 1.9 3.2
ナトリウム mg 2 16 15 73
カリリウム mg 514 472 439 200 690 500 460
カルシウム mg 150 144 118 19 49 170 120
マグネシウム mg 8 69 12 26
リン mg 22 47 45 44
鉄 mg 1.17 1.97 1.28 0.3 2 2.8 1.7
ビタミンA μg 4790 4340 3540 40 700 520 750
ビタミンK μg 29 270 210 250
ビタミンB1 mg 0.05 0.11 0.09 0.1
ビタミンB2 mg 0.03 0.2 0.13 0.16
ナイアシン mg 0.2 0.6 1 0.38
ビタミンB6 μg 0.18 0.16 0.15 0.05 0.14 0.12 0.13
ビタミンC mg 67 54 55 5 35 39 19
硝酸態窒素 mg 50 78 51
表2-3 ベビーリーフの栄養価
※レタス、ホウレン草、コマツナ、シュンギクは五訂日本食品標準成分表準処
日本食品分析センターによる(エム・ヴイ・エム商事株式会社 ホームページより引用)