事例9:補水が大量に入ると、チップバーンなどの生育障害が生じた。

1.何が起こったのか

  栽培ベッドの洗浄などで、排水バルブを開けた。洗浄終了後、排水バルブを閉じるのを忘れた。養液が入ってきても排水されてしまい、養液タンクへリーターンされず、養液タンク内の養液水位が所定量以下になり、自動的に補水が供給された。

養液の急激な変化でダメージを受け、生育が小ぶりになり、チップバーンも発生した。

 

2.原因は何であったのか

(1)養液組成は大きく違ってくる。

養液管理トラブル(例:排水バルブの閉め忘れ)などで、補水が大量に入ると、EC値が低下する。養液管理機が作動し、EC値が設定値になるまで追肥配合が補給される。養液のEC値が回復するが、基底配合と追肥配合の組成は異なっているので、養液組成は大きく違ってくる。

(2)補水が大量に入ると、pHが急速に上がったり、下がったりする。

露地のように緩衝になるイオンが少なく、迅速な化学の変化がストレートに㏗の変化として現れ、短期時間でpHが大きく変動する。

(3)アップ液(アルカリ性溶液)かダウン(酸性溶液)液が供給される。部分的に成分が沈殿する事があり、それによる成分変化も生じる。

(4)アルカリ性養液中で根はダメージを受ける。伸長が阻害され、根は褐変し壊死する。植物の細胞壁は主成分がペクチンとセルロース、ヘミセルロースで作られている。

ペクチンとヘミセルロースはアルカリ可溶成分であり、細胞壁の細胞間隙は大きくなる。

細胞壁の内側にある細胞膜の主成分は、たんぱく質とリン脂質でタンパク質や脂質は、アルカリ性養液中で変性する。特に細胞分裂の盛んな根端分裂組織(根の先端部)がダメージを受けやすく、根端の褐変が初めに見られるようになる

(5)養液濃度の急激な変動(参照 第3章8.膨圧、第3章11. キャビテーション)

1)補水が入り低張液になると膨圧が高まり、追肥が入ると高張液となり、膨圧は下がる。細胞内に光合成産物が貯まってくると、細胞内溶液は高濃度になり、水が浸透して膨圧が高まる。細胞壁強度より大きくなると、細胞は破裂し、チップバーンが生じる。

 2)養液の粘度が変化し、キャビテーションの泡が発生して養液の移動が阻害された。

 

3.対策方法と目標到達点

《目標到達点:ヒューマンエラーをゼロにする。》

(1)バルブの切り替えや閉め方などの管理を確実に行う。管理シートを作成し、ミスが無いようにする。

(2)ダブルチェックでヒューマンエラーをゼロにする。

(3)養液更新時は、基底配合で調整する。追肥養液には更新翌日に切り替える。