1.何が起こったのか
栽培室湿度が高く、送風が十分でないとチップバーンが多くなった。
2.原因は何であったのか
(1)二酸化炭素と養水分供給、カルシウム供給が不足する。
1)栽培室湿度が高いと(飽差が少ないと)葉からの蒸散が減り、養水分と一緒に移動するカルシウム供給が不足した。葉からの養水分蒸散に伴い根から養水分が吸収される。イメージとして、ストローで水を吸う現象と同じと考えれば理解しやすい。
2)湿度が高いと、気孔を水蒸気(水)が多く通過するため、二酸化炭素の通過、吸収が遅れることになる。水蒸気や窒素、酸素よりも、二酸化炭素は気孔を通過し難い。
3)気孔の二酸化炭素の入り易さと、水蒸気の入りやすさ比例関係にある。水蒸気の方が二酸化炭素より1.6倍気孔を通過しやすい。
4)微風でも気孔近傍の空気を入れ替えるので、二酸化炭素の供給を増やすことになる。
(2)通常のエアコンは冷房モードに入らないと、湿度が50~70%を保つことが出来ない。蛍光灯の点灯数が少ない場合、熱の発生量も少なくなり、暖房モードに入ってしまう。そこで、エアコンの1台以上を強制冷房モードして除湿する。低細菌の野菜生産の場合、湿度は60%±10%で管理しないと細菌管理が出来なくなる。
(3)エアコンの暖房モードと冷房モードの作動より、栽培室温に温度差が生じる。高温域
では、成長が早くなる。
(4)サーキュレーター能力不足により空気循環が十分でなく、蒸発潜熱による葉温低下も十分でなかった。
3.対策方法と目標到達点
《目標到達点:チップバーン発生を10%程度に抑える。》
(1)エアコンでの湿度を下げ、サーキュレーター等で送風する。
1)二酸化炭素と養水分、カルシウムの供給を高める。
2)栽培室温度を均一にする。葉からの蒸散を増やす。
3)風速は20cm/s~50cm/s程度で良い。強すぎる風では、葉や葉柄を傷めることになう。
この数値は経験則でもある。無風の場所で生じるチップバーンなどの障害も、わずかな風で発生を減じることができた。
(2)養液のカルシウム濃度を高める。
事例6:送風が不十分だと、チップバーンが多発した。
1.何が起こったのか
栽培室湿度が高い状態で推移していた。サーキュレーターの風の流れがほとんど無い、いわば無風状態の場所で栽培した野菜に、チップバーンが多発した。
(1)葉の表面の二酸化炭素の供給が不足し、光合成暗反応による炭水化物生産が減じた。1)気孔近傍の二酸化炭素は吸収されて濃度が薄くなる。
風により二酸化炭素を供給することで光合成速度を高め事が出来る。
2)葉の裏側に気孔が多く存在するので、葉の裏側に風を送ると効果は高い。
3)二酸化炭素は気孔から吸収されるが、二酸化炭素拡散速度は窒素や酸素より遅い為、葉面境界相の二酸化炭素の濃度が下がる。葉に風を送ると、葉面境界相での二酸化炭素濃度が回復する。風は水蒸気拡散にも有効である。
4)拡散速度:CO2 <N2<O2<H2
拡散速度は、分子の実際の運動速度に比べると非常に遅い。
<1回目の衝突から次の衝突までに分子が移動する距離を「平均自由航路」と言う。>
平均自由航路 平均速度 (1気圧、25℃の気体の分子)
CO2 : 0.0000433 mm 378m/s
酸素 : 0.0000702 mm 443m/s
窒素 : 0.0000655 mm 474m/s
水素 : 0.0001962 mm 1,768m/s
(2)風の空気拡散効果(参照 第3章5.1 二酸化炭素と養水分の供給を高める。)
1)葉の裏側は葉脈が浮き出ている。風が当ると空気の流れは乱され、凹部に渦が形成される。それに伴い、気孔近傍の空気も入れ替わり、それに引きずられるように気孔内の水蒸気も引き出され、代わりに二酸化炭素等が供給される。
2)昆虫のトンボの羽と葉の裏側の構造は似ている。トンボは渦により揚力を得ている。トンボの羽と気流の流れ:トンボの羽の断面は、一枚の板を折り曲げたような形状をしている。この形が、弱い風でも渦が出来て、その渦がベルトコンベアのような働きをして風を後ろへと流している。
3.対策方法と目標到達点
《目標到達点:チップバーン発生を10%程度に抑える。》
(1)サーキュレーターで空気循環を津黒出す。
(2)エアコンで湿度を下げる。