事例3:日長時間サイクルを長くするとチップバーンの発生が増えた。
1.チップバーンが多発した栽培条件
1)収穫重量を増やすため、日長時間を延ばしたら、チップバーンが増えた。
<明期:暗期=4時間:2時間>⇒<明期:暗期=6時間:2時間>
2)光強度が光飽和点以上(照度約25000ルクス、光量子約350μmol m-2 s–1)で、栽培室通路側温度(20℃)、栽培室通路側湿度(約70%)
2.原因は何であったのか:(参照: 第1章 1.4、第3章8.膨圧 )
細胞強度≧細胞膨圧になった。
3.対策方法と目標到達点 《目標到達点:チップバーン発生を10%程度に抑える。》
(1)1日の日長時間の合計時間は同じで、<明期:暗期>サイクルを短縮する。
(2)蒸散量を増やす。蒸散量を増やす方法は、1)栽培棚に送風する。2)除湿し飽差を高める。ことである。例えば、日常生活で梅雨時期の洗濯物を部屋干しする場合、扇風機で風を当て、除湿機を組み合わせて乾かすが一般的であるが、それと同じである。
葉からの蒸散量が増えれば、カルシウムも根から吸収された養水分と一緒に供給される。
(3)養液のカルシウム濃度を高める。
カルシウムの吸収は根端および側根の着床部位など限られた部位で行われ、吸収速度は養液中のカルシウム濃度に依存する。養液の濃度が低いとき吸収速度も小さい。
カルシウムの吸収は、植物体内での拡散や外気への蒸散に依存した受動的なものである。したがって、蒸散が抑制される条件下(暗所、高湿度)で吸収速度は抑制される。経験的に葉中のカルシウム濃度が200ppmで、チップバーン発生はかなり防ぐことが出来る。
(4)根量を増やすため、養液温度を20±2℃で管理する。
発根能力は25℃までは高まり、それ以上では低下する。
1)細胞膜である脂質二重層の流動性は、養液温を18℃以下になると低下するので、低温になる場合は養液を加温する。
2)高温になると根の通水性の低下が、水チャネルの阻害を介して生じる可能性がある。 3)根の呼吸に影響する要因の温度、光、酸素である。温度は植物全体の酵素活性に直
接影響し、地上部は光合成による呼吸基質生成を通じて、地下部では呼吸そのものを通じて、エネルギー依存的な養分吸収に影響する。高温では根の呼吸量が増大する上に溶存酸素量が低下するので、根が酸素欠乏に陥りやすい。
(5)養液の拮抗作用に注意する。
陽イオン間の拮抗作用で、特に一価の陽イオン(カリウム)と二価の陽イオン(マグネシウム、カルシウムなど)の間での拮抗作用が顕著である。
カリウム濃度が高いとカルシウム吸収は抑制される。しかし、カリウム濃度が低すぎ得ると、細胞強度を低くする。