1.4.2 カルシウムの移動
(1)根から吸収されたカルシウムは、養分や水分の通り道である導管で観察されるが、葉からの通り道である篩管(しかん)では観察されない。そのことからカルシウムが植物体の中で行
ったり来たりしないと考えられている。カルシウムの移動は、根から導管を通り、植物体内を移動する一方通行である。
(2)カルシウムの移動は遅いうえ、一方通行であるため、上の葉や先端部までは届き難い。
(3)葉の成長が早いと、葉先端部への供給が間に合わなくなる。その結果、葉の先端部のカルシウム不足が生じる。
(4)カルシウムは植物体内の有機酸やリン酸、硫酸、炭酸などと直ぐに結合し、非水溶性の化合物となり易いので、移動し難い必須元素である。
葉に分配されたカルシウムイオンは最上位葉や地下部への再分配は少ない。 (参照:第3章10.7.3 カルシウムの吸収および移動が遅い理由)
1.4.3 葉の先端部までカルシウムを届ける
(1)蒸散量を増やす。
養水分やカルシウムを上の葉や先端部までは届ける力は、葉からの蒸散と根圧による養液供給である。根圧での養液供給だけでは不十分なので、葉からの蒸散が重要となる。
葉からの蒸散量が増えれば、カルシウムも根から吸収された養水分と一緒に供給される。
蒸散量を増やす方法は、1)栽培棚に送風する。2)除湿し飽差を高める。ことである。
<例えば、日常生活で梅雨時期の洗濯物を部屋干しする場合、扇風機で風を当て、除湿機を組み合わせて乾かすのが一般的であるが、それと同じである。>
(2)根圧
養液と根の細胞に含まれる成分の濃度差に生じ、水を地上部に押し上げている。根圧は0.05〜0.5 MPa程度で、根圧は昼夜共にほぼ一定である。夜間、蒸散流がないとき、根圧は吸収した養水分を導管内で押し上げるために寄与していると考えられる。
1.4.4 カルシウム吸収率を高める
(1)養液のカルシウム濃度を高める。
カルシウムの吸収は根端および側根の着床部位など限られた部位で行われ、吸収速度は養液中のカルシウム濃度に依存する。養液の濃度が低いとき吸収速度も小さい。
カルシウムの吸収は、植物体内での拡散や外気への蒸散に依存した受動的なものである。したがって、蒸散が抑制される条件下(暗所、高湿度)で吸収速度は抑制される。経験的に葉中のカルシウム濃度が200ppmで、チップバーン発生はかなり防ぐことが出来る。
(2)根量を増やす
根量を増やし、カルシウム吸収量を多くする。根を大きくし側根と根毛を育てる。
1)噴霧水耕の方が湛液水耕より根数を増やす。
噴霧液滴サイズを均一にする、根に均一に噴霧する、噴霧間欠間隔をあけて、根の発達を促す等が有効である。
2)養液中の硝酸塩濃度を高め、根の密度を高くする。
(3)養液温度を20±2℃で管理する。
発根能力は25℃までは高まり、それ以上では低下する。
1)細胞膜である脂質二重層の流動性は、養液温度が18℃以下になると低下するので、低温になる場合は養液を加温する。
脂質二重膜でタンパク質が出たり入ったりするが、流動性がない(膜が硬すぎる)と、タンパク質が入り込むことが出来なくなるため、タンパク質の機能の発現に流動性が重要となる。
2)高温になると根の通水性の低下が、水チャネルの阻害を介して生じる可能性がある。
3)根の呼吸に影響する要因の温度、光、酸素である。温度は植物全体の酵素活性に直接影響し、地上部は光合成による呼吸基質生成を通じて、地下部では呼吸そのものを通じて、エネルギー依存的な養分吸収に影響する。高温では根の呼吸量が増大する上に溶存酸素量が低下するので、根が酸素欠乏に陥りやすい。
(4)養液の拮抗作用に注意する
陽イオン間の拮抗作用で、特に一価の陽イオン(カリウム)と二価の陽イオン(マグネシウム、カルシ ウムなど)の間でこの拮抗作用が顕著である。
カリウム濃度が高いとカルシウム吸収は抑制される。