7.二酸化炭素濃度

完全人工光型植物工場では二酸化炭素濃度を1,000ppmで管理している所が多い。 二酸化炭素濃度は他の環境要因との兼ね合いで決めることであるが、管理ポイントは、栽培野菜に均一に供給することである。                            二酸化炭素は空気より比重が重い。そのため、下記の特徴がある。 ①沈みやすい。  ②栽培ベッドの上段と下段では濃度のバラツキが生じ易い。             ③空気の流れにも影響を受け、栽培ベッドの中央部と通路側とでは差が生じ易い。 それらを考慮した栽培施設が必須になる。特に二酸化炭素吸収が多くなる定植期は、中央部の濃度が薄くなりやすく、品質に差を生じ易くなるので、十分な管理が必要である。 現在の二酸化炭素濃度(350~400ppm)では、Rubiscoによる二酸化炭素固定の最大活用には十分でなく、光呼吸が起こる。しかし、1,000ppmが最適濃度であるかどうかは分かっていない。完全人工光型植物工場の最適な栽培室内二酸化炭素濃度は、その工場の栽培環境で異なるからである。2,000ppmぐらいで光合成速度はピークになるとの報告もある。                                      1億年前の大気の二酸化炭素濃度は現在の約4倍高く(約1,500ppm)その後、二酸化炭素濃度は低下し西暦1800年には250ppmになった。現在は約400ppmである。                             完全人工光型植物工場の栽培室炭酸ガス濃度は気流速度とも関連し、気孔近傍の二酸化炭素は吸収されると、濃度は低下するが、すぐに補給されれば不足する事は無い。 7.1 二酸化炭素濃度1,000ppmで生育が良い。 二酸化炭素濃度を高めると光合成速度が高まるのは経験則でもあり、また色々な研究機関でも確認されている。(1.6 栽培室の二酸化炭素濃度 <文献情報>を参照)  (1)炭酸ガス濃度と光合成速度の関係。島根県農業技術センターホームページより。 完全人工光型植物工場の光量子束密度は300μmol m-2 s-1前後なので、図からは炭酸ガス濃度の高い方が光合成速度の速い事が分かる。900と1,500μmol m-2 s-1で大差なく、1,000ppm管理が妥当といえる。 しかし、注意しなければならない事は、単に濃度の問題ではなく、気孔から吸収する炭酸ガス量であり、空気移動(風)のある葉部では、700ppmでも遜色なく育つ。 7.2 二酸化炭素濃度を大気中より高める理由 (1)照度が低い場合は、RuBP再生産速度(吸収系)が律速になる。単に二酸化炭素濃度を高めても光合成速度はそれほど高まらない。しかし、ルビスコ(カルビン-ベンソン回路の炭酸固定酵素)含有量を増やし、炭酸ガス濃度を高めることで光呼吸が抑えられ光合成速度が早まる。 噴霧水耕栽培では根が多くなりと、根端分裂組織でつくられる植物ホルモンのサイトカイニンが増え、葉に運ばれてルビスコ含量を増やしている。 (2)光呼吸を抑え、エネルギーロスを減らすために、葉緑体内の二酸化炭素濃度は、高い状態に保つと良い。 (3)栽培室内の二酸化炭素が高くても、気孔に供給されなければ、二酸化炭素欠乏になり光合成速度は低下し、光阻害の原因にもなる。 (4)二酸化炭素供給低下の原因 ①気孔近傍の空気中の二酸化炭素は、吸収されて濃度が低下する。しかも、酸素や窒素などに比べて移動速度が非常に遅いため、補給が遅れる。 ②一般的に葉の表皮細胞は二酸化炭素を通さない。二酸化炭素はほとんど全て気孔を通って葉の中に入る。葉の中は細胞が詰まっているわけではない。細胞と細胞の間は気相の空間があり(細胞間隙)、気孔を通ったガス状の二酸化炭素は、細胞間隙を通って葉肉細胞の細胞壁にたどりつく。このあと、細胞壁を通って、細胞膜を通過し、細胞質に入り、葉緑体包膜を通過してストロマに達する。  ③栽培室湿度が高い(飽差が低い)と、水蒸気が多く気孔から通過するため、二酸化炭素の通過は遅れることになる。 ④二酸化炭素は水蒸気や窒素、酸素よりも気孔を通過し難い。 (5)完全人工光型植物工場では、植物にとって充分な二酸化炭素供給を保つ事が出来る。 ①エアコンやサーキュレーター等で風の流れを作り出している。エアコンのソックダクト方式では冷気を天井から落とし、温気は上昇するので対流が生じる。さらにサーキュレーターで栽培室内空気の撹拌を行う。葉近傍の気流速度を0.2m/s 以上で成長促進する事が知られている。 ②空気循環で葉面境界相抵抗が小さくなり、二酸化炭素の気孔からの取り込みが容易になり光合成速度を高めている。 (6)ルビスコ(カルビン-ベンソン回路の炭酸固定酵素)含量を増やし、二酸化炭素濃度を高めることで光呼吸が抑えられ光合成速度が早まる事が知られている。 ①噴霧水耕栽培で根を多くなると、根端分裂組織で作られる植物ホルモンのサイトカイニンが増え、それが葉に運ばれてルビスコ含量を増やしている。 ②葉緑体内の二酸化炭素濃度を高い状態で保つと光呼吸が抑えられ、呼吸による消耗を抑制することができる。 ③完全人工光型植物工場で照度が低い場合は、RuBP再生産速度が律速になる。単に二酸化炭素濃度を高めても光合成速度はそれほど高まらない。しかし、サイトカイニン量を増やすことで、光合成速度を早める事が出来る。 <補足説明> 1)ルビスコ ルビスコは分子量55万の大きな酵素である。ルビスコは反応速度が遅く炭素固定反応は酸素に競争的に阻害され、酸素付加反応で始まる光呼吸反応では二酸化炭素を発生する。光合成速度(カルビン-ベンソン回路の炭酸固定速度から光呼吸経路による二酸化炭素放出速度を差し引いた正味の二酸化炭素固定速度)を速めるために、植物は大量のルビスコを持たなければならない。葉のたんぱく質の30~50%がルビスコである。ルビスコの二酸化炭素に対する親和力は酸素に対する親和力の10倍高く、炭酸固定の方が優先される。  2)二酸化炭素は水に溶け水溶液は弱酸性を示す。> この為アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム等)およびアルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)の水酸化物の水溶液および個体は、二酸化炭素を吸収し炭酸塩または、炭酸水素塩を生ずる。細胞液中のカリウムやカルシウム濃度が高いほど、CO2を取り込みやすくなり、光合成速度が速まる事になる。 3)カルビン回路 カルビン回路は暗反応とも呼ばれ、二酸化炭素(正確には炭酸イオン)の固定をおこなう。炭酸固定反応である。二酸化炭素はアルカリ性の水の溶けると、炭酸水素イオンと炭酸イオンに解離する。細胞質は弱アルカリ性(pH、7.2-7.4)であり、細胞質内に取り込まれた炭酸ガス(二酸化炭素)は炭酸イオンと炭酸水素イオンになり、カルビン回路で使われる。 4)炭酸イオン 炭酸イオンはイオン式が CO32−、分子量が 60.01 g/mol で電荷が-2のアニオンである。1個の炭素原子を中心に3個の酸素原子が等価に結合した平面三角形の構造をとる。