6.低湿度環境でも光合成能力が高い。

6.1 気孔が開き二酸化炭素を取り込めるので、光合成能力は高い。

(1) 低細菌を求める完全人工光型植物工場では、栽培室湿度60%±10%の管理で、全く支障は出ていない。湿度が湿度は75%~85%だとチップバーンを発生させやすい。

露地栽培では、光合成にとって湿度は75%~85%が良いとされる。

(2)湿度を下げる事、風を送る事は二酸化炭素の供給を増やすことになる。

1)光合成をするには基質である二酸化炭素が必要になる。二酸化炭素は、空気中から葉緑体まで受動的、つまり濃度勾配に依存して拡散していく。気孔近傍では二酸化炭素が吸収され濃度が低下し、他の気体(酸素や窒素)に比べて移動速度が非常に遅いため、補給が遅れる。葉緑体の二酸化炭素濃度は、約半分に落ちるとの報告もあり、二酸化炭素濃度の低下は光合成の効率を下げる事になる。

  2)一般的に、葉の表皮細胞は二酸化炭素を通さない。二酸化炭素はほとんど全て気孔を通って葉の中に入る。                              葉の中は細胞が詰まっているわけではなく、細胞と細胞の間は気相の空間があり(細胞間隙)、気孔を通ったガス状の二酸化炭素は、細胞間隙を通って葉肉細胞の細胞壁にたどりつく。このあと、細胞壁を通って、細胞膜を通過し、細胞質に入り、葉緑体包膜を通過してストロマに達する。

3)気孔は、葉肉細胞と外界をつないだり遮断したりする役割を持つ。気孔が完全に閉じると、ガスの交換が起こらなる。気孔のCO2の入り易さと、水蒸気の入りやすさ比例関係にある。水蒸気の方が二酸化炭素より1.6倍気孔を通過しやすい。湿度が高いと、水蒸気(水)が多く気孔から通過するため、二酸化炭素の通過は遅れることになる。すなわち、水蒸気や窒素、酸素よりも、二酸化炭素は気孔を通過し難い。

(3)飽差(ほうさ)

ある温度と湿度の空気に、あとどれだけ水蒸気の入る余地があるかを示す指標である。空気1m3当たりの水蒸気の空き容量をg数で表す(g/m3)。植物の水分状態は、相対湿度よりもこの飽差に強く影響を受ける。植物の生長にとって最適の飽差は3~6g/m3とされている。

1)飽差が6以上だと水分欠乏の危険を感知して気孔を閉じ、蒸散はされなくなる。    2)飽差が3以下になり空気が湿り過ぎると、植物と空気に水蒸気圧差がなくなり、気孔

 は開いていても蒸散は起こらず、二酸化炭素は吸収できない。

3)施設栽培の適正飽差を次のように管理することになり、作物の生育がよくなる。

・20℃以下 :相対湿度70% ・25℃くらい:相対湿度80%

・30℃以上 :相対湿度85~90%

  4)完全人口光型植物工場は60±10%で管理する。                 細菌管理の必須条件であり、環境制御により作物の生育が良くなっている。

6.2 蒸散により養分吸収と養分移動が生じる。

蒸散には気孔の開閉制御が関与する。ただし気孔を完全に閉じた状態でも、クチクラ層を通しての蒸散は行われる。気孔を通じて行われる蒸散を気孔蒸散、クチクラ層を通して行われる蒸散をクチクラ蒸散と呼ぶ。

地上部と地下部との水ポテンシャル勾配が大きくなると、水は根から吸い上げられる。水分は植物体と土壌との浸透圧差により移動し、無機塩類やその他の養分と共に植物体へ吸収される。植物体内における水の移動は、蒸散を起点とする水ポテンシャルの変化により引き起こされている

 

<蒸散速度の考え方>

         El-Ea    El :気孔内空隙の水蒸気分圧、Ea:大気中の水蒸気圧

E=k               E  :蒸散速度、             k:係数

      Rlv+Rav   Rlv:気孔抵抗       Rav:葉面境界層抵抗

 

 ⇒E(蒸散速度)を大きくするには、分母を小さくするか分子を大きくすれば良い。

(1)分子を大きくする。

1)El(気孔内空隙の水蒸気分圧)を大きくする。

①葉温を高める。

葉温が高くなれば、葉肉組織からの水蒸気蒸散が高くなり、気孔内水蒸気量が大きくなる。栽培室温度は20~24℃で設定。レタスの生育適温は18~23℃と言われ、20℃との文献もある。それより、やや高めに設定する。

②根からの十分な吸水を行わせると、葉肉組織の水ポテンシャルを高め、葉肉組織からの水蒸気蒸散を高めることになる。水耕栽培では根が乾燥することは無い。

2)Ea(大気中の水蒸気圧)を小さくする。

①除湿が有効(湿度60±10%)である。栽培室の湿度を60±10%と低く管理する。

  ②葉周辺の空気の移動(風を送る)。密植しない。下から上への喚起。風を当てる。

エアコンのソックダクト方式で冷気を天井から落とすと、温気は上昇するので、対流が起きる。さらに、サーキュレーターで栽培室内の空気の移動を行っている。

 (2)分母を小さくする

  1)Rlv(気孔抵抗)を小さくする。

気孔の開閉によって変化し、開度が大きいほど小さくなる。

①膨圧が高くなると、孔辺細胞が膨らみ、気孔の開度は大きくなる。

②気孔は青色光によっても開放が促進される。3波長蛍光灯照射=青色光

③植物ホルモンのサイトカイニンは気孔の開放を促進する。

サイトカイニン含量が高いと蒸散は盛んになる。噴霧水耕で根量が増える。

④逆にアブシジン酸の活性が高まると、気孔は閉じる。

植物にストレスを与えない栽培管理。水耕栽培はストレスが少ない。

2)Rav(葉面境界相抵抗)を小さくする。

葉から出た水蒸気が大気中に拡散する際の抵抗であり、風速に影響される。

①サーキュレーター等で空気移動する事で、葉面境界相抵抗は小さくなる。

②ソックダクト式エアコンで空気の流れが下から上へと対流が生じる。冷気が天井位置から均一に降下し、蛍光管等で発生する熱は上昇する。葉の裏側にある気孔に空気の流れが葉面境界相抵抗を下げる。さらに、サーキュレーターで栽培室内の空気の移動を行っている。

 

<補足1>不均一な気孔開閉が起こっている。

①気孔を開閉させるホルモンはABA(アブシジン酸)である。気孔によりABAに対する反応が違う。

②気孔を開くためには孔辺細胞の膨圧が必要。しかし、膨圧が上がらなくても、孔辺細胞周辺の表皮細胞が縮めば、相対的に孔辺細胞が膨らむことになり、孔辺細胞は膨圧が上がらなくても気孔は開く。

③表皮細胞の膨圧の低下を通して周辺気孔の開き方が同調する。(説)

   湿度が下がって蒸散速度が大きくなると、細胞から水が出て行くため、孔辺細胞・表皮細胞とも膨圧は下がる。たまたま、ある気孔が大きく開いて、周辺の表皮細胞の膨圧が大きく下がると、その膨圧が下がった表皮細胞の周辺にある孔辺細胞が大きく下がることになる。

 

<補足2>アブシジン酸の働き

①根系が乾燥すると、アブシジン酸が根で作られ、蒸散流に乗って葉に到達する。

水耕栽培では根が乾燥することはほとんど無く、気孔閉鎖のメカニズムは働かない。

②アブシジン酸の気孔閉鎖メカニズム。

孔辺細胞をアブシジン酸処理すると、細胞膜の陰イオンチャンネルが活性化され、孔辺細胞からの陰イオン(主に塩素イオン)の排出が起こり細胞膜は脱分極される。ついで、細胞膜のカリウムチャンネルが脱分極に応答して開き、カリウムイオンを排出し、孔辺細胞の浸透圧が低下し、水が排出され、孔辺細胞の体積が減少し、気孔が閉鎖する。アブシジン酸は気孔開閉に関わる細胞膜H+-ATPaseも阻害し、気孔閉鎖を促進する。