5.植物の成長と萎れ

5.植物の成長と萎れ

 噴霧水耕では噴霧ノズルの詰まり等が無いように管理する。栽培パネル上の野菜で一部分だけ萎れた場合は、その下部の噴霧ノズルが詰まっている事が多い。噴霧ポンプが故障し養液噴霧が止まった状態で光照射が続くと、栽培ベッド上の全ての野菜が萎れてくる。湛液水耕では、養液バルブの閉め忘れなどで養液の大半が排水された場合に萎れを生じてくる。

 

5.1 植物の成長

(1)植物は細胞分裂と細胞伸長により大きくなる。

細胞分裂は茎(または枝)の先端と根の先端で起きており、それぞれの先端には成長点が存在し絶えず細胞分裂により細胞が増えている。新しくできる細胞は次々と成長点から下の方へ押しやられ、細胞伸長により細胞はサイズを増していく。主として縦に長い細胞になる。最終的には場所によりいろいろな働きや形の細胞にかわっていく。

(2)植物細胞の特徴

植物の細胞が動物の細胞と大きく違うところは、外側が細胞壁で囲まれていること、内側に液胞があることである。

1)細胞壁は細胞を外界から守り、植物の外形を整えたり支持したりする重要な構造である。若い細胞では細胞壁には柔軟性があるが、古くなると、硬化をもたらす物質も加わって

柔軟性を失い、硬くなり伸長成長には障壁となる。

2)液胞は細胞が若いうちは小さく細胞の成長に伴って次第に大きくなる。最後は植物細胞の体積の大部分を占めるようになる。細胞質は細胞膜の内側に薄くへばりついた状態になる。

(3)植物細胞伸長(どのようにして大きくなるか。)

伸長成長をするには液胞内の水の体積を増加させなくてはならない。

 1)細胞は周囲から水を吸収し水膨れになる。縦に長い細胞は縦方向に水膨れになる。

2)若い細胞の細胞壁は柔軟性があるので、引き伸ばされる。古い細胞の細胞壁は固くなり、引き伸びにくくなる。

 3)植物細胞伸長の必要な条件は細胞壁のゆるみと水吸収である。細胞壁を酸性化して細胞壁の緩みを引き起こす事で伸長生長を引き起こす。

 

5.2 細胞の萎れ

葉からの蒸散量の方が吸収量よりおおくなると、萎れにつながる。

(1)水が十分あるにも係らず、萎れが観察されることがある。その原因は、根への酸素供給不足により、根の活性が低下⇒根の吸水力が低下⇒根からの吸水量が葉からの蒸散量に追いつかず、植物体内の含水量が低下する為に萎れる。

(2)酸素欠乏以外の要因として、長時間の酸性養液に浸かっているか、養液がアルカリ性に変化すると萎れにつながる。

5.3 細胞壁の緩み

細胞壁で生じるイオン交換は細胞壁の緩みに関係する。弱酸性になると細胞壁が緩み、養水分の吸収が容易になる。

(1)水素イオンが多くあると、細胞壁の繊維と繊維の間をつないでいるカルシウムの橋を切る。ペクチンカルシウムの架橋が外れ、ゲル化が崩れる事で細胞壁が緩んでくる。

(2)細胞壁の主成分は多糖類である。細胞壁内にはその分解酵素が含まれており、それらの多くの至適pHは弱酸性(pH 5~5.5付近)であり、細胞壁内が酸性化する事で多糖分解酵素の活性が上昇する。セルロースとマトリックスの結合を弱めることになる。両者の間の結合は水素結合で、それを切断するからである。

(3)養液が微酸性であり、さらに根から水素イオンが放出されると、根の表皮表面でpH低下部が多数存在する。根の周り(細胞外)のpH5、細胞内pH8とすると、細胞外の水素イオン濃度は細胞内の水素イオン濃度の1000倍にもなる。根周辺の水素イオンが、細胞の中に押し込まれて侵入するものもある。

(4)液胞膜は細胞質膜よりアクアポリンが多量に発現しており、水透過性も細胞膜より高い。アクアポリンは水分子を選択的に透過させるが、イオンや他の物質は透過させない水チャネル(water channel)と呼ばれている。

(5)強制的な長時間の酸処理により細胞壁が大幅に緩んでしまうと、細胞内からの急速に溶質流失が生じ、膨圧低下を引き起こしてしまう。

(6)養液がアルカリ性になると細胞膜のゆるみは起こりにくくなり、水吸収は抑制される。

 

5.4 細胞間隙 (細胞と細胞の間にある隙間)

細胞間隙が大きいと、葉や茎部が折れやすくなり、トラブルの原因になり易い。

(1)導管は縦と横方向に2分化するが、育苗期の養液温度や栽培温度が高温になると2分化が早く起こり、導管群間にメカシカルな歪みが生じて柔細胞の破壊により空隙が出来る。

(2)高い養液温度は、間隙周辺細胞の分裂抑制とリグニン化を促進する。間隙は柔細胞の充填が無く、間隙としての空洞として発達する。破生細胞間隙となる

(3)最初の間隙形成要因は物理的力による細胞破壊である。定植時、パネル移動に苗に縦方向の物理的力を与えている事が多々ある。

(4)破生細胞間隙の中に、大型の細胞が増殖・侵入する前に、葉や茎部の伸長が進む。

(5)空隙形成の要因に低酸素ストレスがある。 (Gladishetal.2)