栽培段階に応じた養液管理

1.11 栽培段階に応じた養液管理
 同じ養液組成で育苗、仮植、定植の各ステージの栽培を行うと、育苗段階では栄養が不足し、定植では過剰になり易い。定植期間を硝酸塩濃度が高い養液で栽培すると、贅沢吸収し、硝酸塩を多く含有しエグ味を強く感じる野菜となる。
(1)発芽・育苗養液
1)高栄養状態で生育する。発芽には水分だけで十分だが、発芽後の育苗時には種子中の栄養分だけでは、不足してくる。
ウレタン内部の養液を入れ替え作業は生産現場では難しいので、良い苗の生産には高栄養が必須である。
2)播種~仮植終了までは18日~20日が平均的な日数であるが、その期間に光合成に関与する酵素のルビスコが葉中で多量に生産される。(Makino et al., 1984)
ルビスコの窒素源である硝酸態窒素は高濃度である方が生育は良くなる。
3)養液に光があたるので、藻が発生しやすい。播種後4~5日で藻の発生が進んでくると、pHが上がってくる。pH7以上になると、根の発育が阻害される。
4)養液温度は栽培室温度以下が望ましい。また養液温度は20±2℃が望ましい。
養液温度>栽培室温度だと、葉の伸長は遅れる。
(2)仮植養液
1)硝酸塩濃度は600ppm程度とする。
  仮植期修了時までは、ルビスコ生産が増加する期間であり、その時期に硝酸塩濃度は高い方が苗の生育は良くなる。「苗半作」の諺が示す様に、この時期の苗の状態がその後の生育に大きく影響する。
2)養液のpHがアルカリ側になると、リン酸カルシウム等が再結晶化してくる。
噴霧水耕の場合ノズルが詰まり易くなり、多大な影響を及ぼす。
3)pH調整用のアップ液やダウン液は10倍程度の希釈をして使用する。
原液でpH調整すると、pHの振れが大きく、再結晶化させる恐れがある。
4)細胞内のpHを一定に保つために、細胞外のpHが重要になる。
アルカリ性養液中で根はダメージを受ける。伸長が阻害され、根は褐変し壊死する。植物の細胞壁は主成分がペクチンとセルロース、ヘミセルロースで作られている。ペクチンとヘミセルロースはアルカリ可溶成分であり、細胞壁の細胞間隙大きくなる。
細胞壁の内側にある細胞膜の主成分はたんぱく質とリン脂質で、タンパク質や脂質は、アルカリ性養液中で変性する。特に細胞分裂の盛んな根端分裂組織(根の先端部)がダメージを受けやすく、根端の褐変が初めに見られるようになる。
(3)定植養液
1)生育速度の早い期間なので、硝酸塩の消費が大きい。養液中は300ppmを維持するように、追肥で調整する。
2)カルシウムは吸収速度が遅いので養液中に残りやすく、カルシウム濃度が高くなりやすい。EC管理だけでは、硝酸塩管理が出来ない。
3)硝酸塩の吸収が大きい野菜では、短期間でアルカリ側になりやすい。
レタスやミズナの栽培では、pH確認を必ず行う。
(4)高付加価値化養液
1)高濃度化を目的とする場合は成分だけを溶解する。高カルシウムなら、塩化カルシウムだけを溶解する。鉄ならば、キレート鉄を溶解する。
2)低濃度化
   低硝酸塩化の場合は、硝酸塩を100ppm以下で管理する。
  低カリウム化はカリウムだけを0ppmとし、他の成分は定植養液と同じが望ましい。