栽培管理・制御のポイント

 「過ぎたるは猶(なお)及ばざるが如し」である。強すぎる光は毒にもなる。
(1)光の管理すなわち光合成を管理する。
栽培品目ごと、光飽和点は違う。レタスの場合は25,000ルクスと言われている。
強光の場合は余剰エネルギーが活性酸素を作り出し、光阻害を生じる。光化学反応を修復できる範囲で管理が必要となり、日長時間のサイクルを短くするとチップバーンの発生は少なくなる。
弱光の場合は、日長時間が長い方が光の総量が増えるので、大きくなる。
(2)ATP生産を高める管理を行う。植物の生育が速くなる。原形質流動(注)のエネルギー源がATPであり、生体反応が進むからである。
 呼吸で生産されるATPを増やすには、酸素と糖の細胞への供給量を増やせば良い。
 葉からの酸素と二酸化炭素の取り込み量を増やせばよく、
1)気孔を開かせる必要がある。青色光が有効。なお、蛍光灯には青色光も含む。
 2)二酸化炭素の気孔からの吸収量を増やすため、風を送る。
3)養液の流れの中に根を浸すと、絶えず新しい酸素を供給することになる。
4)蒸散流を増やすため、飽差を高めて風を送る。
5)栽培温度を高めると生体反応は速くなるので成長は早くなるが、度が過ぎるとチップバーンを発生しやすくなり、形態も背伸びした姿になる。
(3)温度管理が重要 
1)栽培品目に適した温度がある。レタスでの栽培室温度は20~24℃で設定。
2)養液温度は栽培室温度以下で管理する。高いと溶存酸素の低下になる。
(4)養液管理
蒸散を高めることで供給量を増やす。酸素供給を増やすため養液温度は低くする。

(注)原形質流動とは細胞内小器官に様々な生体分子を輸送するための細胞運動のこと。
原形質流動の高速化あるいは低速化にともない、植物は大型化あるいは小型化する。   植物の大きさの変化は、細胞の数ではなく細胞の大きさの変化であることが知られている。ATPをエネルギー源とし、細胞骨格を形成しているマイクロ(アクチン)フィラメントとモータータンパク質(ミオシンなど)との相互作用により流動力が生じる。

<参考>植物と動物の比較
栽培管理・制御方法を理解する上で、『生命の営みは、動物も植物も基本メカニズムは同じと考えられる』であり、同じ生命であるならば、良く知っている存在の人間について『たとえば、○○のように』とアナロジー(類比思考法)で考えると分かりやすい。
 なお、レタス栽培は、栄養成長(茎や葉の栄養器官を大きくする)だけであり、生殖成長(花が咲き果実を実らせる)については 対象外とする。
(1)成長
 1)各成長ステージで必要な栄養素と量は異なる。
①乳児では高脂肪・高栄養が必要な栄養であり、中学生の急速に背丈が伸びる時期は高タンパク質とカルシウムが重要となる。中学から高校性の期間で生じる成長痛は、骨の原料のカルシウム不足が主原因である。
②植物の育苗期は高栄養で成育する。窒素栄養を強化する。定植期間でカルシウム量が不足すると、チップバーンを発生しやすくなる。
 2)栄養(養水分)の供給
  ①動物は口から摂食する。栄養量は食べる量で調整する。成長期の摂取量は消費量
より大きい。低栄養状態で成長すると、成長障害となる。                   ②植物は気孔から気体を取り込む。根から養水分を吸収する。
     葉(気孔)や根の近傍は、気体や養分が吸収されるとその濃度は薄くなるので、濃度を回復する為に葉に風を送り、根には養水分の流れを作り出す必要がある。
3)成長曲線
①胎児~乳幼児~児童~学生~成人(18歳)
   学生時代の成長が著しく、大人になれば大きくならない。肥満は過食による細胞肥大が原因で、生活習慣病になりやすい。
 ②植物もS次曲線で成長する。定植期後半で急速に背丈が伸びる。
   栽培適温(レタスでは15~18℃)を大幅に超える(25~28℃)以上になると、本来の形状にならず背丈が伸びたレタスになる。倒伏や下葉の黄化等の品位低下につながる。
(2)身体を支える。
  ①動物は骨格(骨の強度と関節)で支え、カルシウムとタンパク質が重要になる。
   運動による筋肉量も重要である。
②レタスなどの野菜類は、細胞壁と膨圧で支える。セルロース類とペクチンカルシウムで細胞壁を構成しているので、細胞壁が軟弱であると、膨圧に負けて破裂する。水分が不足し細胞が萎れてくると、支える力が減じる。
(3)移動(運搬): 酸素をすべての細胞に十分に行き渡るようにする必要がある。
①動物は血液の循環で、糖や酸素(ヘモグロビンと結合)その他栄養成分を移動する。
②植物は根から吸収した養水分を蒸散流や根圧で、導管や篩管、細胞間隙ネットワーク経由で運ぶ。気体は気孔から取り込まれる。
(4) 酸素は呼吸によるATP生産に必須である。
①動物はヘモグロビン(鉄)と酸素が結合して血液で各細胞に供給する。酸素の補給がたたれると速やかに死滅する。
②根が酸素欠乏になると、いわゆる「湿害」を生じる。